参考資料)イギリスのダンス状況について

イギリスにおけるコミュニティダンス普及の歴史と現状

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イギリスにおけるコミュニティダンスは1976年ごろから盛んになり始める。地域でのコミュニティダンスの活動は、2000年では毎年75,000件あり、年間におよそ480万人の人々が参加している。その中の半分以上の活動は主に子どもや若者向けのものであるが、その形は多彩である。これらは、プロのアーティストやカンパニー、オーガニゼーションと、地方自治体やユースセンター、そしてコミュニティの人々や地域の教育機関の人々との連携によって開催される。また、数年間の間に、コミュニティダンスで出会った若者が立ち上げたダンスグループが数多くあり、1996年には、イギリス全土で推定550以上のグループがあった。このようなグループは、皆独自に活動を行っており、地方自治体や芸術財団に認められているダンスエージェンシーを介したかたちや、学校の課外授業の一環として活動が行われている。

1945
戦後、ドイツからルドルフ・ラバンが“誰にでも踊れるダンス”としてコミュニティダンスを持込み、小学校の先生のためのトレーニングにダンスが取り入れられる。さらに郊外への居住区移動などにより、かつてのコミュニティが崩壊しスラム化が起きたコミュニティを再結束するためにも、コミュニティダンスは提唱され、受け入れられた。

1967
カウンターカルチャーの風潮が起こる。

1969
コンテンポラリーダンス専門の劇場を含む中間支援組織としてプレイス[※1]がロンドンに設立される。以降、イギリスにおけるコンテンポラリーダンス発展の先端を担う。

1975
1970年前後から活動を行ってきたラバン[※2]などのトレーニング学校から多くの卒業生が輩出される。しかし彼らにとって、その後の活動の場、職は当時ほとんどなかった。その頃、カウンターカルチャーの波に乗っていた他のアートシーンでは、ギャラリーや美術館を出て、ストリートなどの開かれた場で一般の人にアートに触れてもらおうという考え方が興隆していた。この考え方が、活動の場を探していた当時のダンスアーティストにも広がっていき、多くの卒業生たちがコミュニティにその場を見出していった。

1978
アーツ・カウンシル[※3]が教育面へのサポートを決定。学校教育を離れた、一般へのダンス教育のためにお金を出し始める。同じ頃、民間の慈善団体がコミュニティダンスの普及に興味をもち始め、コミュニティダンスのためのファンデーションシステムがいくつか立ち上がり始める。これにより、地方のコミュニティダンスに興味を持つエージェンシーがアーツ・カウンシルなどの国の機関と共に、地域のためのダンスに資金を出し合う、というシステムが可能になった。(後にイギリスのコミュニティダンスの数多くの企画を生み出すことになる、コミュニティダンス財団[Foundation for Community Dance]の前身の組織も活動を始める。)プロのダンス教育機関であるラバンがコミュニティコースを設立。

1989
アーツ・カウンシルにその実行機関ともいえるナショナル・ダンス・エージェンシー[※4]が設立される。これにより各地に恒常的なダンスの拠点ができ、コミュニティダンス企画がより一層各地に浸透していくこととなる。

【1】 プレイス The Place  http://www.theplace.org.uk/

ナショナル・ダンス・エージェンシー(※4参照)のひとつ。特にアウトリーチ・教育の部分に焦点をあてて活動している。基本的な5つのプロデューシング部門<1.劇場  2.学校&教育 3.アーティスト育成・開発

4.レジデントカンパニー(リチャード・アルストン ダンスカンパニー) 5.ラーニング・アクセス(コミュニティ部門)があり、この5つの各々が公演を開催したり開発事業を行うなど、それぞれが協力して活動している。また、教育現場への取り組みの中でユニークなものとして、科学をダンスで教える「Science~Physical」がある。これは、2年間にわたって7歳から11歳の子どもを対象に科学的概念をダンスで学ぶ方法を調査・研究し、ワークショップ・プログラムを作成、そのプログラムを教材としてCD-ROM化したプロジェクト。日本では、NPO法人子供とアーティストの出会い(京都)が、このプロジェクトを参考にした取り組みを「ダンスで、理科を学ぼう」として実施している。 ※子供とアーティストの出会いについては、http://www.npo-kad.com/

【2】 ラバン LABAN  http://www.laban.org/

ヨーロッパのモダンダンスのパイオニアの1人である、ルドルフ・ラバンが、第二次世界大戦中にロンドンに亡命して創立したダンス教育機関。ダンサーや振付家に向けた様々な専門コースを提供するほか、子供たちや若者、大人を対象とした多彩なコミュニティ&教育プログラムも実施している。

【3】 アーツ・カウンシル Arts Council  http://www.artscouncil.org.uk/

文化行政の専門家集団による公的機関で、英国内に9つのリージョナル支部を持つ。文化を所管する国の省庁は、文化・メディア・スポーツ省(DCMS)であり、国は美術館、劇場、コンサートホールといった芸術団体やアーティストの活動等に資金援助を行っているが、行政が直接行うのではなく、アーツ・カウンシルを通じて助成が実施され、行政機関と政府の間に一定の距離がおかれている。

【4】 ナショナル・ダンス・エージェンシー  National and Regional Dance Agency
 http://www.danceuk.org/resources/navigating-dance-world/national-and-regional-dance-agencies/

アーツ・カウンシルが下部組織として設立した各地域のダンスの拠点。各州にほぼ1機関ずつ、10団体存在する。主に地方に潜在しているダンスアーティストを育て、彼らの国内外への進出の手助けをするための環境が整えられており、各州の人々がプロのダンスアーティストを目指すための拠点となっている。また地元の他のオーガナイザーやプロデューサーと企画や経済面を協力し合い、コミュニティ向けのレッスンや公演を実現するなど、属する地域社会とダンスとの橋掛かり的役割を果たしている。イギリスの地方都市におけるダンスムーブメントの中心的担い手。
※他にも英国内には民間のダンスエージェンシーが64団体存在し、各地で全国的な取り組みを行っている。企画対象を特化させた団体が多く、JCDNと親交の深いコミュニティダンス財団(Foundation for Community Dance)もそのひとつ。

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98年から3年間の準備期間を経て、01年京都にて設立。全国のコンテンポラリーダンスの環境整備と、ダンスの持っている力を社会の中で活かし、子供から高齢者まで日常生活の中でダンスに触れる機会を創ることを目的に活動する。2008年「DANCE LIFE FESTIVAL」を皮切りに、日本におけるコミュニティダンスの普及事業を本格的に開始。学校や地域、福祉分野へのアーティスト派遣コーディネートを全国にて行う。ほかに、「コンテンポラリーダンス新進振付家育成事業」「三陸国際芸術祭」などの事業やコンテンポラリーダンスの統括団体としての活動、講演や執筆など、ダンスと社会をつなぐ様々な活動を行っている。2006 年国際交流基金地球市民賞、2015 年京都市芸術振興賞、2018 年京都はぐくみ憲章はぐくみアクション賞(こちかぜキッズダンス)、2020 年サントリー文化財団地域文化賞(三陸国際芸術祭)、令和4年度文化庁長官表彰。

 

2014年7月22日
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