英国のコミュニティダンス視察 03 『StopGAP Dance Company』

[視察内容] Arts Council England, South East(※1)のダンス担当官であるジェイミー(Mr Jamie Watton)が、この地区で活動する団体を集め、活動紹介と交流の機会を与えてくれた。参加団体は、それぞれの活動内容についてDVD等を用いて説明。 その中から、ここでは『StopGAP Dance Company』を取り上げる。

※1 Arts Council England, South East/アーツ・カウンシル・イングランド・サウス・イースト
アーツ・カウンシルは、イングランド内に9つのリージョナル支部を持っており、サウス・イーストはその1つである。
英国南東部の芸術団体やアーティスト等へのサポート、コミュニティに向けた活動を行っている。

 

 

StopGAP Dance Company

Ms.Denise Woods, General Manager/Ms.Vicki Balaam, Artistic Director

■ メンバーとカンパニーの特徴

4 人のダンサー、アーティスティックマネージャー(10年のキャリア)、ジェネラルマネージャー(2年)、コミュニティ部門担当のアーティスト1名によるカ ンパニー。2人のマネージャーは「ダンス開発」を行うためカンパニーに加わっている。カ ンパニーの大きな特徴は、英国唯一、ダンサーに学習障がい者・身体障がい者・健常者を含むダンスカンパニーであること。自分たちのダンスを「統合的ダン ス」と呼ぶ。カンパニーのミッションは「ダンスという媒体を使い“統合性”を見せ付けることができるか、また“皆で統合すること”にどんな効果があるかを アピールする」という点にある。

■ 作品

作 品制作にはイギリスをはじめ国際的なコレオグラファーと協力している。(最新作は別々のコレオグラファーによる7つのセクションに分かれた作品。アップ ビートの作品にも挑戦している)作品づくりの上での目標は「楽しく親しみやすい形であること、創造性や芸術性、技術性においては“これでいい”というとこ ろに挑戦していくこと、つまり新しいことを開発してゆくこと」に情熱を注いでいる。

 

■ 教育プログラム

4 人のダンサーが教育プログラムにおいてもチームを作成し実施。10 年ほど前から教育プログラムを行い内容は充実している。昨年は教育的ワークショップに英国で1,420名が参加し、このうち920名が障がい者であった。 ダンスの経験や技術力は問わず、子供から高齢者まで、いろいろな人を対象にしている。専門集団としてストップギャップのワークショップでは動きが制限され ている人々(身体障がい、視覚障がい、聴覚障がい、またコミュニケーション能力の障がいなど)への対応も可能である。障がい者と健常者を混ぜ、モットーと しているのは「既成概念を取り除くこと、バリアを取り除くこと、そして安全な環境の中で自分の自信を取り戻しクリエィティブな考え方を持ってもらうこと」 また「若い人にコレオグラフィー(振付)のチャンスを与えることで個人は異なることを認識させ互いに尊重することを教える」ことである。

■ 活動の広がり

教育的プログラムは学校や障がい者施設、特定の地域などで実施し、ひとつの地域で5~6種の組織と組み同時にいくつものプログラムを実施することもある。 活動の中で大切にしているのは、一回訪問して去って終わり、ということでなく、できるだけLegacyを残すということ。地域の先生などに情報や技術を教 え、自分達がいなくても活動が継続できるように心がけている。公演についても同様。いかに人々に覚えておいてもらえるか工夫を凝らす。若い人や障がい者の 発展を目ざすとともに、障がい者へのダンス指導員の育成やダンサーの技術養成にも力を注いでいる。障がい者と健常者を交えた“Integrated youth Company”の設立とサポートも行う。現在、スウェーデン政府から資金をもらい、スウェーデン北部で“Integrated youth Company”を設立するプロジェクトにもかかわっている。

■ 特徴
StopGAP の特徴は、技術面のみならず、携わる人々、観客すべてに感動を与えること、その心に触れることができるということにある。障がい者と健常者が共に存在する “統合性”でどんな効果があるかを示すことができ、かつアピールすることに成功しているカンパニーである。ダンサーが社会の規範(ロール・モデル)になる ということを見せることができる。

 

※この場をセッティングしてくれたアーツ・カウンシルのジェイミーさんへのインタビューは、次回の報告で掲載します。

 

[視察日]2007年6月24日~30日

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98年から3年間の準備期間を経て、01年京都にて設立。全国のコンテンポラリーダンスの環境整備と、ダンスの持っている力を社会の中で活かし、子供から高齢者まで日常生活の中でダンスに触れる機会を創ることを目的に活動する。2008年「DANCE LIFE FESTIVAL」を皮切りに、日本におけるコミュニティダンスの普及事業を本格的に開始。学校や地域、福祉分野へのアーティスト派遣コーディネートを全国にて行う。ほかに、「コンテンポラリーダンス新進振付家育成事業」「三陸国際芸術祭」などの事業やコンテンポラリーダンスの統括団体としての活動、講演や執筆など、ダンスと社会をつなぐ様々な活動を行っている。2006 年国際交流基金地球市民賞、2015 年京都市芸術振興賞、2018 年京都はぐくみ憲章はぐくみアクション賞(こちかぜキッズダンス)、2020 年サントリー文化財団地域文化賞(三陸国際芸術祭)、令和4年度文化庁長官表彰。

 

2014年7月8日
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